お宝No.312
「ヒトの心の発達と進化の道すじ」を探求し、人間にとって「真に」暮らしやすい社会を再設計したい
提案者: 京都大学大学院教育学研究科(明和政子研究室) (左京区)
明和研究室では、「ヒトの心の発達とその背後にある生物学的基盤」を科学的に解明する研究を行っています。
ヒトの形態的な特徴と同様、目には見えない心のはたらきも、進化の産物です。生物としてのヒトが独自にもつ心とは、どのようなもの(what)でしょうか。それを知るには、「いつ(when)・どのように(how)・なぜ(why)ヒトの心が生まれてくるのか」を明らかにすることが必要です。
ヒトの心の発達とその進化の道すじを、個を取り巻く他者、社会、文化、環境を含めて科学的に理解することで、ヒトらしい心の発達を実現するうえで必要な条件が正しく理解できるのです。
現代社会では、子どもや若者が抱える不安、孤独感、誰にも頼ることができず孤立育児に悩み、苦しんでいる母親の数は増加の一途をたどっています。こうした状況に向き合うには、人間という存在の「正しい」理解が不可欠です。研究者としての私たちの目標は、
(1) これらの課題に現場で向き合い、尽力されている専門職の方々に、その科学的知見をわかりやすい形で届けること、
(2) 真に妥当な実践のありかたを、研究者と現場の専門家がともに考え、市民が抱える深刻な問題を解決していくこと、
にあります。
ひとつの例として、ヒトの子育てについて考えてみましょう。
ヒトという生物は、 母親ひとりが子育てを担うかたちで進化してきたのではありません。母親だけでなく、祖父母、兄弟姉妹を含む血縁、家族、所属集団を単位とした子育て、子どもの面倒を共同でみる子育て―「共同養育」を連綿と続けながら、ヒトは進化してきたのです。母親にのみ極端に負担が集中する子育てはつい最近起こった事態であり、生物学的にみて不自然であるという事実を、今こそ社会全体が理解しなければなりません。
ヒトの子育て環境がこれほど急激に変化したのは、せいぜいこの100 年のことです。ヒトは20 万年前、途方もなく長い時間をかけて環境に適応しながら、今あるような身体や心を獲得してきました。しかし、あまりに急激な環境の変化に身体や心がすぐに適応できるはずはないのです。こうした事実が、現代社会の子育てに深刻な問題を引き起こしているのです。
ヒトの生存を可能にしてきた子育てとは何か、それに必要な条件とは何かを科学的に明らかにすることで、現代の子育て問題の根幹をはじめて理解することができるのです。こうしたアプロ―チから現場の専門家を支え、ヒトの本来の子育てである共同養育の実現をみなで目指していきたいと思っています。
【ホームページ】⇒http://myowa.educ.kyoto-u.ac.jp/
進捗状況・成果
2019/3/15(金)人類の未来を考えるシンポジウムが開催されます!
2019年2月12日
AIやデータ科学等の技術開発が進むなど社会状況が急激に変化していますが、そんな中、私たち人類はそういった変化にどのように向き合い、そして発展していくべきなのでしょうか?
そんな大きなテーマについて考えるシンポジウムが、明和研究室主催のもと開催されます。
当日は、サイエンスライターの吉成真由美氏による講演とともに、京都大学の山極学長をはじめとする、多分野にわたる研究者が集った対論を通して、人類のこれからの未来について、さまざまな観点から考える機会がつくられます。
オープンな講演会ですので、ご興味のある方はぜひご参加ください。
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▼日時:2019年3月15日(金)13:00-16:20
▼場所:京都大学 国際科学イノベーション棟5階シンポジウムホール
▼登壇者:
・吉成真由美氏(サイエンスライター)※講演+対論
・山極寿一氏(京都大学総長・自然人類学)※対論
・鈴木晶子氏(京都大学大学院教育学研究科教授・教育哲学)※対論
・國吉康夫氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授・知能情報学)※対論
・明和政子(京都大学大学院教育学研究科教授・認知科学)※司会
▼参加費:無料
▼主催:文部科学省科学研究費補助金(基盤A)『身体的表象から自他分離表象にいたる発達プロセスの解明(代表:明和政子)』
▼共催:京都大学学際融合教育研究推進センター人社未来形発信ユニット(ユニット長:出口康夫)
2018/11/12(月)、育児支援の現場に携わる専門家の研修会に登壇されました!
2018年12月28日
11/12(月)に行われた「母子保健業務説明会」に、京都大学明和研究室の明和政子先生が登壇しました。
今回は、『最新科学でひも解く親と子どもの脳と心の発達-子どもが育つ・親も育つ』と題し、保健師さんなど、育児支援の現場に携わる専門家へ向けての講演が実現しました。
80分間、充実した研究資料をもとに化学的根拠に裏打ちされた講義が行われ、「子どもの行動には、実はそんな意味があったのか!」など、子どもの振る舞いや反応の意味が理解できる内容になっていました。参加者である保健師さん等の反応もよく、今後の育児支援に活かせると、皆さん熱心に聞き入るなど、大変好評な会となりました。
※参考※
・NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?最新科学で迫る ニッポンの子育て」
・NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?2最新科学で迫る ニッポンの子育て」
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今回の企画は、子ども若者はぐくみ局育成推進課との意見交換から始まりました。
「ヒトの生存を可能にしてきた子育てとは何か、それに必要な条件とは何か」を科学的に明らかにする研究を進められている明和研究室では、こうした研究によって、現場の専門家を支え、ヒトの本来の子育てである共同養育の実現を目指したいと考えていました。
そうした思いに対し、育成推進課が毎年行っていた、保健師さん向けの研修会での連携を検討された結果実現したのが、今回の取組です。
市民の方の思いや知識などの協力を得ながら、よりよい公共サービスを社会にもたらしていけるような、こうした取組も、今後ますます実現していけたら、と思います。
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