大きなプロジェクトに失敗したり、家族と大げんかをして「死にたい」という気持ちを抱いても、不安で人に打ち明けることができない…そんな経験をしたことはありませんか?
もしかしたら現代の社会では、「死にたい」という気持ちを無意識に否定する風潮があるのかもしれません。そうやって無理に抑え込んでしまって悩んでいる人たちをサポートするために、浄土真宗の僧侶、長嶋蓮彗さんがはじめたのが「京都自死・自殺相談センターSotto(以下、Sotto)」です。
自死・自殺と向き合うとき、相談、対策、予防、啓発など様々な方法がありますが、多くの場合「〇〇しないように対策が必要だ」といった否定の気持ちが隠れているものです。そこでSottoでは、“相談”センターという役割に徹し、否定も肯定もせず、あなたの気持ちをありのまま受け止める、ということを大切にしています。
窓口は、行政機関の相談窓口がカバーしにくい時間帯である、金曜日と土曜日の19:00から翌朝5:30まで受け付けている電話相談と、年中無休で受け付け可能なメール相談のふたつ。2015年度は電話相談約2000件(1日あたり約20件)、メール相談約1000件の相談がありました。
また2013年からは、生きづらさやしんどさ、疑問を感じていることなどを自由に話し合える「おでんの会」という集まりを毎月一回開いています。
様々な具材があるおでんは、ひとつひとつがそれぞれの良い味を出しています。そんなおでんのように、それぞれの持ち味を出しながら、お互いに触れ合うことで、優しく暖かな場になってほしいと願って名付けたのだそう。
2015年度の参加者は171名。今では予約でいっぱいになるほど多くの方から必要とされる場となりました。
「私が行っても良い場所」であることを伝える
どうしてこんなに人が集まるようになったのでしょうか。その要因はふたつあると長嶋さんは言います。
ひとつは「おでんの会」のチラシに、「死にたい気持ち」という言葉をはっきりと打ち出していること。そうすることで「私のための場所なんだ」「私が行ってもいいんだ」と思ってもらえているだろうと長嶋さんは推測しています。
そしてもうひとつは、参加のハードルを下げていること。例えば参加費は無料、最寄り駅から会場までは無料送迎など、思いついたらふらっと参加できるようにしています。
これらのSottoの活動に共通するのは、そっとそばに寄り添うこと、そして彼らの声に耳を傾けること。ひとりひとり微妙に違う孤独感に向き合い、「悩みを話す人がまわりにいない」「同じ目線で話を聞いてくれる人なんていない」「どうせ相談してもわかってもらえない」という人のために「心の居場所」をつくっているのです。
私たちもいつ、どんなきっかけによって、「死にたい気持ち」を持つかはわかりません。そんなとき問題を解決するアドバイスでも、「頑張ってみたら」という励ましでもなく、「死にたい気持ちを持ってもいいよね」と思わせる優しさがSottoにはあります。こういう場こそ、社会におけるお守りのような存在であり、これからのお寺が果たすべき役割かもしれません。
みなさんも親しい友だちや家族がいつもと様子が違うなあと感じたら、そっと彼らの話に耳を傾けてみませんか? それだけで救われる人が、たくさんいるはずです。
記事の執筆 世古口 敦嗣さん(NPO法人Ubdobe関西支部長)
執筆協力 北川 美里さん(京都府更生保護女性連盟 事務局)
- この記事は、市民ライター講座を受講された市民ライターの方お二人に執筆いただいた記事です。
- 京都自死・自殺相談センターSottoは、「まちづくり・お宝バンク」に登録されている団体です。